トッププロが語る「エイムは変数コントロール」という考え方
この記事は、Overwatchの名コーチWizardHyeongと、元TF2/OverwatchプロのShruggerが語る「エイム哲学」を解説した動画の内容をまとめたものです。
単なる「フリックがうまい」「トラッキングが綺麗」という話ではなく、エイムを作っている“見えないプロセス”をどう設計するかにフォーカスした内容になっています。
この記事の要点
- エイムは「マウス」「自分の動き」「相手の動き」という3つの変数をコントロールするゲーム。
- プロは撃つ前に必ず「相手がどう動くか」を読み、そのうえでショットタイミングを決めている。
- 敵がこちらを見ていない場面では、あえて止まる・直線移動するなどして、自分の動きの変数を削っている。
- マウスを大きく振るほどミスのリスクが増える。プリエイム/置きエイム/ムーブエイムで「マウス変数」を減らすことが重要。
- エイム距離(照準とターゲットのズレ)を、撃つ前の時間を使ってどれだけ短くできるかが命中率を決める。
- トップ500ですら多くは「変数コントロール」を意識しておらず、プロとの一番の差はこの部分にある。
紹介:10年以上かけて磨かれた「エイム哲学」
動画のホストはOverwatchコーチのWizardHyeong。8年間トップ選手たちと一緒に戦い、シーズン優勝やステージ優勝に関わってきた人物。
JJoNak、Pine、Corey、Lipといった“神エイム”を持つ選手のエイムを直接教えたわけではないが、彼らがどう練習していたかを観察し、そこから多くを学んだと語る。
もう一人の話し手Shruggerは、2011年から活動しているベテランFPSプレイヤー。Team Fortress 2からOverwatchまで、複数タイトルでプロとしてプレイし、その後はOverwatch Leagueのコーチも務めている。
この二人が、10年以上かけてまとめた「エイム哲学」のコアが、変数コントロールという考え方だ。
エイムは「変数コントロール」のゲーム

まず彼らは、映画やドラマに出てくるスナイパーを例に出す。
スナイパーは撃つときに息を止めたり、心拍数を落としたりする。呼吸や心拍のわずかなブレが、命中/外しを大きく左右するからだ。このとき、呼吸や心拍が変数(変化する値)になる。
重要なのは、変数は結果に影響を与えるということ。スナイパーにとってのゴールは「ターゲットに当てること」で、そのために呼吸や心拍をコントロールしている。
同じことをFPSでもやるべきだ、というのがこの動画の主張だ。
ゲーム内の3つのエイム変数

WizardHyeongは、ゲーム内のエイム変数を3つに分けて説明する。
- ① マウスの動き:マウスの動かし方で、照準がターゲットに乗るか外れるかが決まる。
- ② 自分の動き(キーボード):自分がどう動くかで、照準がターゲットの上に残るか、ターゲットから離れていくかが変わる。
- ③ ターゲットの動き:自分が何も動かなくても、敵が動けば照準が合ったり外れたりする。
この3つを「どうコントロールするか」で、エイムの安定性が決まる。
自分でコントロールできる変数/できない変数

変数には2種類ある。
- ある程度コントロールできる変数:スナイパーの呼吸や心拍、自分のマウス・キーボードの入力など。
- 直接はコントロールできない変数:風向きや風速、敵の動きなど。
映画のスナイパーには、横で双眼鏡を覗いているスポッターがいる。風速・風向・距離などの情報を伝え、それを受けてスナイパーは撃ち方を調整する。
風そのものを変えることはできないが、「風を読んでショットを調整する」ことで、結果的に風という変数をコントロールしているとも言える。
敵の動きも同じで、動きを直接変えることはできないが、動きを読んで、自分のエイムを調整することはできる。ここがほとんどのプレイヤーが意識していないポイントだと二人は強調している。
プロは「撃つ前に相手の動きを読む」

代表的な例として、動画ではRupalのアナクリップが取り上げられている。
味方のキャスディが寝かされ、敵のキャスディがデッドアイを構えている超重要シーンで、Rupalはピークした瞬間にスリープダーツを撃たない。
0.5秒〜0.25秒ほど待ち、キャスディがどちらに動くかを見てからスリープを撃つ。
まさに「風を読むまで撃たないスナイパー」と同じで、敵の動きという変数を観測してからトリガーを引いている。
トップ500のアナプレイヤーでも、多くはこの場面で即スリープを撃ってしまうだろう。それでも70〜80%の確率で当てられるかもしれないが、変数コントロールのステップを挟さまないせいでブレが大きくなる。
Profit、Shyのクリップでも同じことが起きている。
敵がどこに逃げるか、どの移動スキル(ダブルジャンプ、ブリンクなど)を切るかを読んでからショットを撃つことで、エイムの安定性と一貫性を最大化している。
「時間」は予測のために払うコスト
動画では、時間を“お金”にたとえている。
敵がこちらを見ておらず、しっかり狙う余裕がある場面では、少し時間を支払うことで、そのぶん「相手の動きを読む」ことができる。
- 敵がカバーに隠れるのか、前に出てくるのか。
- ジャンプ中なのか、着地後どちらに動きそうか。
- どのキャラのどの移動スキルを切るか。
この情報を集めるために、0.25〜0.5秒というわずかな時間を使う。そうすることで、“たまたま当たるショット”ではなく、再現性のあるショットに変えていく、という考え方だ。
プロは「動きの変数」を削ってエイムを楽にする

次のテーマは「自分の動き」。
Dafranのクリップでは、敵がこちらを見ていないタイミングでは完全に立ち止まって撃っている。
自分が動けば動くほどエイムは難しくなるので、あえて止まることで動きの変数をゼロにしているわけだ。
味方シグマのシールドが出た瞬間に動きを止めて撃つシーンや、Viol2tが右クリックを撃つ瞬間だけ完全に静止するシーンなど、トップ選手は「ここなら止まっても安全」というタイミングを常に探し、その瞬間だけ動きを単純化している。
一方、学生の例では違う。
- 敵がこちらを見ていないのに、ソルジャーで無駄に左右に振り続ける。
- 楽なフリーエイムの場面でキャスディがジャンプして自分の照準をずらす。
- ウィドウに狙われていないのに、ずっとストレイフし続けてエイムを自ら難しくしている。
本人は「避けているつもり」でも、実際には誰にも見られていないので、ただ自分のエイムを邪魔しているだけになっている、という指摘だ。
マウス変数を減らす:プリエイムとムーブエイム

エイムの話になると、多くのプレイヤーは「トラッキング精度」や「フリック速度」に意識を向けがちだが、WizardHyeongたちは、まずマウスの動きそのものを減らすべきだと主張する。
ここで出てくるのが、
- プリエイム(置きエイム)
- ムーブエイム(キーボードで照準を合わせる技術)
Kaiの例では、Viol2tがカバーに隠れると予測し、先にそこに照準を置いておくことでマウスの移動量を減らしている。Ansのウィドウも同じで、敵アナの落下地点を読んで、落ちてくる位置に最初からエイムを置いておく。
ShyやProfitは、ピークする前に壁やカバーに照準を置き、出る前にエイムを完成させてからピークする。ValorantやCSでよく見られるプリエイムを、Overwatchでも全力で使っている形だ。
対照的に、韓国100位台の学生やトップ500のプレイヤーでも、多くは「ワイパーエイム」になっている。
ターゲットの周りを大きくなぞるようにマウスを振り続け、照準が行き過ぎて戻り、また行き過ぎて…を繰り返している。敵はこちらを見ていないのに、必要以上にマウスを動かしてミスの確率を上げてしまっている。

ムーブエイムという発想

動画の中盤では、DafranやLipのクリップを使って「ムーブエイム」が説明される。
- ターゲットが照準の左側にいるなら、自分が左に歩いて照準を重ねる。
- 右側にいるなら、自分が右に歩く。
このとき、マウスは最小限しか動かない。
Lipは、敵アナがジャンプしたときだけマウスを動かし、それ以外は移動キーでエイムを合わせ続ける「ミラーエイム」のような動きを見せる。
ポイントは、「マウスで全部やろうとしない」こと。
マウスは自由度が高すぎるので、そのぶんミスの余地も増える。だからこそ、動きや予測と組み合わせて、マウスの仕事量を意図的に減らしている。
エイム距離と時間:ポジショナルエイムという考え方

ここで新しい概念が出てくる。それがエイム距離と時間だ。
- エイム距離:照準とターゲットの間の距離。重なっていれば0、離れているほど大きい。
- 時間:撃つまでに残されている余裕。0.5秒、0.25秒など。
撃つ直前のエイム距離が短ければ短いほど、そのショットは簡単になる。
180度フリックのような「距離の長いショット」は難易度が高く、プレイヤーのフィジカルに強く依存する。
ここで重要になるのがポジショナルエイムだ。
ポジショナルエイムとは、「撃つためのショット」ではなく、「エイム距離を縮めるための動き」のこと。
- ポジショナルフリック:撃たずに照準だけ素早く寄せて、エイム距離を短くする動き。
- ポジショナルトラッキング:撃つ前の空き時間に、ずっとターゲットをなぞり続けて距離0を維持する動き。
Ansのトレーサーへの3ステップのエイムや、Profitのソジョーンへのトラッキングは、このポジショナルエイムの典型的な例だ。
上手い人ほど「空き時間」でエイムを更新している

学生のクリップでは、多くが「撃つ瞬間だけエイムする」スタイルになっている。
ショット間のリコイルディレイや、敵が姿を見せる前の時間をほとんど使っていないため、毎回「遠い距離からのフリック」を強いられている。
一方、プロたちは、
- 敵が出てくる場所にあらかじめプリエイムしておく。
- ショットとショットの間も、ずっとポジショナルトラッキングを続ける。
- 1分間に何十回もエイム距離を更新し続けている。
WizardHyeongは、「トップレベルの選手が1分間に30回エイムを更新しているとしたら、上位500プレイヤーは15回くらいかもしれない」とイメージを語る。
この差が、そのままエイムの再現性の差になる、というわけだ。
この動画から学べる「実戦でのチェックポイント」
最後に、動画の内容を踏まえて、実際のプレイで意識したいポイントを整理しておく。
- 敵がこちらを見ていないとき、本当にそこまで動く必要があるか?止まれるタイミングを探す。
- 撃つ前の0.25〜0.5秒で、「敵がどこに動きそうか」を一度読むクセをつける。
- フリックで一発当てることより、撃つ前にエイム距離をどれだけ短くできたかを意識する。
- ソルジャーやザリアだけでなく、アッシュやキャスディでも、ポジショナルトラッキングを積極的に使う。
- リプレイを見返して、「ここ、止まって撃てたな」「ここ、プリエイムできたな」という場面を探す。
- 無意識のジャンプ、意味のないストレイフなど、自分の「動きの癖」がエイムを邪魔していないか確認する。
まとめ:派手なフリックより、見えないプロセスが大事
動画のラストでShruggerは、自分のキャリアを振り返りながらこう語っている。
- 昔は「180度フリック」や派手なショットに誇りを感じていた。
- でも、スランプや成長の頭打ちを経験する中で、ショットタイミングやトラッキングの使い方など、プロセスのほうが無限に伸びることに気づいた。
今回の「変数コントロール」「エイム距離と時間」「ポジショナルエイム」「ムーブエイム」といった概念は、どれも筋トレのように長期的に伸ばしていける要素だ。
もし自分のエイムに日ムラがある、トレーナーでは強いのに試合で当たらない、と悩んでいるなら、一度「どの変数をどうコントロールしているか」を見直してみる価値がある。
